オランダのJ・クンストによる1950年の造語Ethno-musicologyに由来する学問名称で、文化相対主義を基礎とする。当初、諸民族の民俗音楽や古典音楽を研究対象とし、演奏実践を通じての理解、またはフィールドワークによる文化的理解をそれぞれ主張する2派を主軸に、社会学、言語学、心理学、民俗学、政治学、経済学など他分野の理論を援用する研究が行われた。
しかし、20世紀末までに研究対象は西洋芸術音楽、ポピュラー音楽、新しい融合音楽(ワールドミュージック)などあらゆる音楽ジャンルをはじめ、音の文化、舞踏、演劇など関連領域にまで拡大され、それらの歴史的動態性を前提にローカルおよびグローバルな脈絡とともに理解する学問分野となった。
こうして、演奏と演奏の場を出発点とする理論などが構築され、さらにカルチュラル・スタディーやフェミニズム研究、ポストコロニアル理論からの影響もあって、共同体、民族集団、ナショナリズム、人種やジェンダーなど、集団や個人のアイデンティティの問題を視野に入れた学術的研究も盛んになった。それと同時に、研究者と調査対象者間に潜在する力関係や録音資料の著作権をめぐる問題への関心も高まった。